年頭のご挨拶 人類の希望 マンデラと南アフリカ (井上英夫)

 

 

【2019年  年頭のご挨拶】

 人類の希望 マンデラと南アフリカ

代表世話人 井上英夫

 明けましておめでとうございます。

 一昨年の本誌1月号で「非核と非暴力」ということで新年のご挨拶をさせていただきました。強固な戦争肯定論とりわけ核抑止力論への根本的な対抗策は非暴力以外にない。

 非暴力を貫くのに、現実は余りに厳しい。しかし、ガンジ―からマンデラへと現代における非暴力主義の足跡をたどると人類の将来に明るい展望が開ける。「あらためて非暴力主義の歴史を学び」と決意を述べました。

 ネルソン・マンデラに会いたい

 昨年11月、私は、愛媛大学の鈴木 靜さんと一緒に約1日かけてケープタウンに到着し、ハンセン病患者、軍・民の犯罪者、政治犯、そしてネルソン・マンデラさんが収監されていた隔離の島ロッベン島、喜望峰、ダーバン、ヨハネスブルクを訪問しました。長年の希望でしたが、マンデラさんが2013年に95歳で亡くなってから5年を経てようやく同じ空気をすえる地に立てました。

 ご存知のように、マンデラさんは南アフリカで48年から91年まで続いた人種差別・人権剥奪制度すなわちアパルトヘイトに敢然と挑戦し、27年間の獄中生活を経て、廃止させ、さらに94年、全国民参加の選挙により大統領になった人です。

 喜望峰にて~ヨーロッパ人から人類の希望へ

 南アフリカの岬が発見され、喜望峰Cape of Good Hopeと名付けられましたが、この「希望」はあくまでポルトガル・ヨーロッパ人にとっての希望であり、南アフリカの人々には苦難の歴史の始まりでした。しかし、喜望峰そして南アフリカは、今や人類にとっての希望の地になったと思います。

 マンデラ広場にて~非暴力・報復の切断と虹の国

 その戦いの歴史は、マンデラさんの自伝(『自由への長い道』上、下巻、東江一紀 訳、NHK出版、96年)に詳しいのですが、私が感動し、人類の未来に希望を持てたのは、非暴力主義により暴力による報復の悪循環を断 ち切ったことです。

 

 マンデラさんも、非暴力主義か、武器を取って立ち上がるか、激しい葛藤の中で、ついに武装部隊を組織します。しかし、その暴力は、白人政府の生命すら奪う暴力による弾圧政策に追い詰められた苦渋の選択であり、施設等物の破壊工作であって、直接人にむけられたものではありませんでした。非暴力主義が根底にあってこそ、解放後、支配者白人に対する報復を断ち切り全人種・全民族の融和による新たな虹の国づくりを進めることができたのだと思います。

 「我々は勝利した。これからは黒人も白人も一緒に国づくりをしよう」

 根底に、黒人も白人も同じ人間であり、価値において平等であるという人間の尊厳、そして基本的人権に対する熱くかつ冷徹な思想と行動があったのはもちろんです。

 ヨハネスパークにあるマンデラ広場に立つとまさに虹の国を眼前に見る思いでした。広場は、黒人、白人、黄色人種と多様な人々が行きかい、レストランで食事し、子供たちが一緒に遊ぶ光景が見られたからです。

 しかし、南アフリカの現実は、マンデラさんの思い描いた国の姿とはまだ遠く、厳しいといわざるを得ません。貧困、格差・不平等は解消されていません。治安状態も世界最悪状態は脱却したとはいえまだまだです。

 「貧困の克服は、慈善や恩恵の問題ではない。正義の活動である。尊厳(dignity)と人間にふさわしい品性のある十分な生活(decent life)への権利すなわち基本的人権の保障である」。

 マンデラの言葉は、社会保障を公助とし、軍事費を優先し、人権ではなく恩恵・お恵みに貶めている日本にも向けられたものでしょう。

 ロッベン島にて~マンデラと憲法97条

 昨年7月、私は、NY国連本部にいました。国連の高齢者人権条約制定のための作業部会参加のためです。

 7月18日は、ネルソン・マンデラ国際デーに指定されていますが、国連本部の一画に、生誕百年を記念してマンデラコーナーが設けられていました。この記念の年に、高齢者の人権保障運動に参加し、さらに、南アフリカの地を踏んだことに不思議な縁を感じます。

 マンデラさんが18年間収監されていたロッベン島に立ち、日本国憲法97条を想起しました。

 基本的人権は、「人類の多年にわたる自由獲得の努力(struggle)の成果」である。

 まさにマンデラさんのたたかいは、日本国憲法の人権の本質にうたわれている「権利のための闘争」でした。

 「たたかい(struggle)は、私の人生。自由のために生命尽きるまでたたかい続ける」。

 マンデラさんについて市民に思いを聞くと、とたんに笑顔がはじけ、ナンバーワンの人、偉大な人、白人と黒人一緒に国をつくるんだと誇らしそうに語ります。まさに、マンデラさんが戦い、勝ち取った人権そして理想が、人々とくに若者に受け継がれていると実感できました。確かに、マンデラさんは偉大でしたが、そのたたかいは、共にたたかう南アフリカの人々、明るく、友好的で活力・向上心にあふれた人々があってこそのことだと実感できた。この旅の最大の収穫でした。

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 南アフリカについては、医療・福祉問題研究会の3月2日例会(午後3時から5時 石川県社会福祉会館)で報告します。ご参集ください。

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