軍縮・不拡散(NPDI)広島外相会議
「広島宣言」について
4月25日、非核の政府を求める会常任世話人会が開催され、原和人常任世話人会から次の報告がありました。
4月11日~12日、第8回軍縮・不拡散イニシアチィブの外相会議が、日本で初めて被爆地広島で開催され、12ヵ国(*)が参加した。
核兵器に対する三つの態度
現在、世界の国々が、核兵器に対してどのような態度をとっているかという視点で見ると、大まかには三つのグループに分類することができる。
一つは米ロを中心とする核兵器保有国があり、「核のない世界をめざす」(2009年4月オバマ演説)と言いながらも、核兵器の廃絶を遠い将来の課題に置き、当面は核兵器による世界秩序を維持しようとする国々である。
二つ目はその対極として、核兵器の非人道性という観点から、核兵器の使用を禁止する核兵器条約によって、核戦争による被害者を再び生み出さないとする非同盟諸国を中心とする国々のグループである。
これらの国々は、「核兵器の非人道性に関する声明」を発表し、第1回目のオスロ、第2回目のメキシコのナヤリットで政府間の会議を行い、今年末には、オーストリアのウィーンで3回目の会議の開催を計画している。
もう一つのグループは、日本やオーストラリアを中心とする国々で、核兵器は保有していないが、軍事同盟などによって核兵器保有国の核の傘の下にある国々が中心である。これらの国々が、軍縮・不拡散イニシアチィブ(NPDI)というグループを形成しており、今回、第8回目の外相会議を広島で開催した。
各国の外相、原爆資料館で実相に触れる
今回のNPDIの会議が、被爆地広島で開催され、各国の外相が原爆資料館などの被爆の実相にふれたことは大いに評価できる。
毎日新聞の報道によれば、会議終了後の共同記者会見で、トルコのダウトオール外相は、「ここで見聞きしたことは一生忘れない」と述べ、ドイツのシュタインマイヤー外相も、「広島、長崎の大惨事は二度と起こしてはならないという信念を与えてくれた」と語ったという。また、被爆の実相を目の当たりにして、今回の会議でも、核兵器の非人道性に関する論議が深まったとの報道がある。
1.外相会議の「広島宣言」の評価
会議のまとめとして、核兵器の廃絶に向け、すべての核保有国に対して多国間交渉の必要性を提唱する「軍縮・不拡散イニシアチィブ第8回外相会合広島宣言」文書が発表された。
核兵器の非人道性という点から、核兵器の廃絶に向けてのNPDIの国々の努力は歓迎しながらも、この「広島宣言」の問題点も少なくない。
(1)核兵器の非人道性について
「広島宣言」は、「今日に至るまで続いている原子爆弾の破滅的で非人道的な結末を直に目撃した。
われわれは、原子爆弾の生存者(被爆者)の証言に非常に深く心を動かされた」と述べている。確かに、核兵器の非人道性を理解するには、広島の地が最もふさわしい。しかし、「非人道的な結末」という一言で語るのではなく、核戦争がどのような結末をきたすのかという具体的な事実がもう少し語られてもよかったのではないか。
今年の2月に開催されたナヤリットの会議の議長総括では、その非人道性の中身が具体的に述べられ、最後に「明白な事実は、いかなる国家あるいは国際機関であろうと、核兵器爆発が起きた際に適切に対応し、必要とされる短期及び長期的な人道援助や防護を提供する能力を持たないということである」と述べている。
今回の広島の会議でも、現代の百万都市に、16キロトンの広島型原爆と、1メガトンの水爆が投下された場合のシュミレーションが報告され、近代化された都市においては69年前のヒロシマ、ナガサキをはるかに上回る被害が予測された。また、NPDIに参加した各国の外相たちが、自ら見聞きした「非人道的な結末」を「広島宣言」に盛り込んだならば、核兵器廃絶に向けてのより強いメッセージになったに違いない。
(2)核兵器不使用の記録が永久に続けられること
「広島宣言」には、「すべての国に対して、あらゆる核兵器の使用の潰滅的で非人道的な結末に対する深い懸念を再度表明することを求める。このような結末にかんがみると、約69年に及ぶ核兵器不使用の記録が永久に続けられるのはすべての国々にとって利益である」と述べている。
それに引き続いて、「従って、核兵器が再び使用されることがないように核兵器の使用を禁止する核兵器条約の交渉の開始を速やかに行うべきである」とコミットするのが論理の流れであるが、この「広島宣言」には、核兵器条約に関する言及が一言もない。
うがった見方をするとすれば、「69九年に及んで、核兵器が使われなかった」理由は、核兵器の抑止力によるものであり、「核兵器不使用の記録が永久に続ける」ためには、従来通りの核兵器の抑止力が必要であると、引き続き核兵器の存在を肯定するものと理解されても不思議ではない。
核兵器が69年間使用されなかった理由は、全くの偶然の幸運であったことは、様々な歴史の事実が証明している。
(3)ウィーンの会議の計画につき、さらなる論議が行われること
「広島宣言」は、オスロからナヤリットに至る「核兵器の非人道的な結末に関する知見を深めること」を歓迎し、「オーストリア政府が、本年度後半にウィーンで次の会議を開催するとの提案に留意し、会議の計画につきさらなる論議が行われることを期待する」と述べている。
ただし、この表現も微妙な表現である。ナヤリットの議長総括では、「次回のオーストリアでの会議を熱烈に歓迎し、過去において、さまざまな兵器が法的に禁止されたのちに廃絶されたことを考慮に入れる必要がある」と述べている。すなわち、核兵器の非人道的な結末の事実から、法的な枠組みを論議すべきであるとして、具体的な方向性が示されている。これに対して、日本国政府は、「(このような法的な枠組みが論議されるようになると)、我が国として如何なる対応をとるべきか、検討する必要がある」として、今後の会議に不参加の可能性もあると示唆している。
このような日本国政府の動きから読みとれることは、ウィーンでの会議の論議の方向性について、「さらなる論議を行うべき」として、もし、核兵器条約のような法的な枠組みに話が進むのであれば、参加しないこともあり得ると脅しをかけているようにも理解できる。
以上のような問題点はありながらも、NPDIの会議においても、「核兵器の非人道的な結末」が中心に論議されたことは歓迎したい。この「核兵器の非人道的な結末」の探究の「結末」は、核兵器は国際人道法に違反し、核兵器の使用は決して許されるものではないとの結論以外にはあり得ないと確信するからである。
*12ヵ国は日本、オーストラリア、ドイツ、ポーランド、オランダ、カナダ、メキシコ、チリ、トルコ、UAE,ナイジェリア、フィリピンの各国。
他にゲスト国が参加。(文責:非核いしかわ編集部)